第10回社会医学若手フォーラム(8月20日)のご案内をいたします。
弁護士の水沼直樹氏から、医療訴訟、クレーム対応と応招義務、ハラスメントなど医療機関における様々な法律問題について広くお話をいただく予定です。水沼氏は、院内弁護士のご経験もあり、多くの医療訴訟を手掛けてこられ、近年では乳腺外科医の準強制わいせつ事件における担当弁護人のお一人でもあられます。昼食をとりながらぜひお気軽にご参加ください。
登壇者による自己紹介・研究紹介および質疑
東京神楽坂法律事務所(弁護士・海事補佐人)、東邦大学医学部・鳥取大学医学部・埼玉医科大学医学部国際医療センター・日本赤十字看護大学(各非常勤講師)、福島県立医科大学(ハラスメント委員、経営審議委員)
日本法医学会、日本DNA多型学会、日本がん・生殖医療学会(理事、倫理委員)、日本生殖医学会(倫理委員)、日本女性学学会(顧問)、日本こども虐待医学会、日本医療安全学会(評議員)、日本臨床リスクマネジメント学会、日本医事法学会、日本賠償科学会(評議員)、日本医療機関内弁護士協会(代表理事)ほか
2004年 東北大学法学部卒業
2007年 日本大学大学院法務研究科卒業
2013年 亀田総合病院(〜2018年)
2018年 都内法律事務所
2019年 鳥取大学医学部(現)
2020年 東邦大学医学部、東京神楽坂法律事務所(弁護士・海事補佐人)(現)
2021年 埼玉医科大学医学部国際医療センター(現)
2024年 日本赤十字看護大学(現)
医療機関における法律問題 ― 医療訴訟、クレーム対応と応招義務、ハラスメント ―
医療機関における法律問題は多岐にわたるが、医療訴訟はさほど多くなく、我が国の医療訴訟は決して増加しているわけではない。1992年以降から2004年までは、医療訴訟(民事)は増加傾向にあるが、その後減少傾向に転じ、現在では年間800件程度を推移している。また、患者側(原告)の勝訴率は減少傾向にあり、一般的な民事訴訟が85%程度(証人尋問を要するような訴訟でも65%程度)であるのに対し、医療訴訟の原告勝訴率はここ数年20%を下回っている。
しかし、医療機関に対しては、治療が奏功しなかった場合のクレームや、スタッフの接遇をめぐるクレームが散見される。わが国の医師には応招義務(医師法19条1項)があり、正当な事由がなく、患者からの診察・治療の求め拒むことができない。そのため、クレームを受けながらも診療に従事せざるを得ない状況がある。もっとも、厚生労働省は令和元年12月に通知を発し、医師の働き方改革に配慮しつつ、患者の診察・治療の求めを拒める正当事由を整理した。なお、応招義務は明治6年から存在する義務であり、諸外国には見られない特殊な義務である。
医療機関や大学等の研究機関では、著作権、特許権といった知的財産権も重要な関心事であるがが、ハラスメントや懲戒処分も法的に重大な問題となっている。とくに類型的に、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメントが多く、これに加え、医療機関では女性スタッフに対するマタニティハラスメントが、また大学等の研究機関ではアカデミックハラスメントが見られる。ハラスメントに対しては、所属機関内でハラスメント認定のための手続が行われ、ハラスメントが認定されると懲戒処分等がなされる場合がある。法律家が関与しない医療機関等では、対象者(推定加害者)の弁明の機会を認めないところもあるので注意が必要である。
医療訴訟であれ、ハラスメント手続や懲戒手続であれ、証拠に基づいて事実認定が行われる。証拠となるものは様々あり、契約書、録音・録画資料のほか、当事者や関係者、目撃者等の供述等あらゆるものが証拠となる。医療訴訟においては、これらのほか、診療記録(カルテ)、説明文書、同意書や、診療ガイドラインや医学論文も証拠となりうる。